父の遠距離介護 五行歌
…懸命に母の介護をしてくれた父ですが、父の番が来ました。
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母の遠距離介護五行歌…詩のみ
父の遠距離介護五行歌…詩のみ
母の介護で
やっと
十分過ぎる
借りを
返した父
消耗仕切った父に
平安のときを
与えてくれた
亡き母に
感謝する
九十歳の父
「恥ずかしいで」と
七十歳と
いつわって
手品教室へ通う
九十歳の
手習い
まさに
幾つからでも
遅くはない
対人関係で
苦しんだ父が
人前で演技をする
"マジック"に
ただ驚く
九十一歳の父
「どこで倒れても
連絡できるよう」と
携帯を
ねだる
実家に着いた時
お茶を出して
呉れるか否かで
判断する
父のコンディション
祝ってくれる
人のいない
敬老の日
父の癇癪が
爆発する
一世紀
生き続けた
高齢者の誕生日こそ
祝う意味が
あるのかも知れない
「助六が出ただけだった」と
年寄りに笑われる
放漫経営の
始末に追われる町の
敬老の日
父の長生きで
私の
想定寿命も
どんどん
伸びる
五十歳の私が
買い出しをし
九十歳の父が
料理を作る
あやしい親子
冷や奴を
湯豆腐にして出す父に
白血球の少なかった
母にした
必死の気遣いを想う
八十歳の立派な方の
「鍋を/洗いながら/ひとり暮らしの/老人だと/思う」
の詩を見て
九十歳・一人暮らし・何もない
父の胸中を思う
どうしようもないと
思っていた
何でも片付けてしまう習性が
高齢男やもめの
清潔を保つ
「まゆちゃんのこと
祈っているよ」
こちらは忘れていても
いつも孫を思ってくれる
九十二歳の父
一人暮らしの老父の
生活力を
考えてみる
"小学一二年生?"
傲然とする
「また来てよ!」
更に老いた
父の言葉に
泣きながら
帰路につく
親の老いで
"心"のふるさとが
"心労"のふるさとに
突然変異
する
寝込んだらどうするか?
介護しながら
どうやって食って行くか?
毎日考える
田舎の老親のこと
真っ黒になっていても
もう自分では
気付けなくなっている
父の足裏を
洗う
幼子のように
両足を投げ出し
はにかんでいる
父の
足裏を洗う
慈しんで接する
ひょっとして
子育てと
同じかも知れない
老親介護
かつて老人は
神に最も近い存在として
尊敬されていたと知る
そっと
老父の横顔を観る
法事だけ
声が掛かる
通い惣領
知っている振りで
親戚を覚えない
「ではお先に」
ついつい
都会の習慣丸出しで
反省する
田舎の集まり
自分の時間を
気にせず付き合う
地域に根付いた人達
つくづく
かなわないと思う
自分の用事だけ言って
電話を切ってしまう
耳の遠い父
激励も出来ない
もどかしさ
痛々しくなる老いで
"感心な息子"から
"残酷な息子"に
評価が急変しかねない
遠距離介護
親父は
大丈夫かと
時々刻々の
田舎の気温を
アメダスでチェックする
老いるほど
自宅と言う
小宇宙でのみ
生きる
老人達
「おい!俺詩を作るんだよ」
耳元で大声でどなる
親父にやり
まだ分かってくれるのが
嬉しい
方々からの
手品
出演依頼
超遅咲きの春
九十歳の父
高齢の父の
趣味に合わせ
手品を習い
今共にある
命続くことを祈る
ひとり暮らしの父を
何くれとなく世話してくれる
従兄姉達
父に、親の面影を
見ているのか?
電話での意思疎通が
出来なくなった父に
絵手紙で
必死の
気持ちを届ける
かつて怒りに満ちていた
父の顔に
時々見える
好々爺
翁の表情
老親介護で
手品・詩・絵手紙・料理を
始める
まだ続く
老親からの贈り物
また一回り小さくなった
父のため
子供売り場で
着る物を
探す
無限だった
父母との年齢差が
段々
収斂するのを実感する
高齢老親介護
同居家族がいれば"要支援"
九十歳過ぎでも
独り暮らしなら
"自立"支援無し
望郷の思いを拒絶する田舎町
一枚岩と思われた姉弟間にも
隙間風吹く
老親介護十年
母という太陽が
いないせいか?
@ひとり暮らしを続ける
A呼び寄せる
B施設に入れる
独居高齢者を幸せにする
道は狭い
親身なのか?
営業なのか?
疑いながら
ケア・マネージャーの
話しを聞く
一刻でも自立を維持し
ただただ
時間を稼ぐしかない
遠距離介護
母港なき航海
夏が来れば秋を
冬が来れば春を
一心に
待ちこがれる
老親介護
「足に血行障害を起こしています!」
ついに細胞が
分裂の限界数に達したのか?と
仕入れたばかりの知識で
どきりとする
老親の
世話だけは
妙に甲斐甲斐しくなる
自分を
怪しむ
寒空にぽつんと咲く
福寿草に
春の訪れと
老親の福寿を
すがるように祈る
母の介護のときは
父が出迎えてくれた
実家への道を
リュックを背に
一人急ぐ
老人だけの住まいに
訪れる
あの世に
連なっているような
夜の闇と静寂
子供・壮年の
居る家と
明らかに違う
老人だけの家の
夜の心細さ
もうこれ以上
ひとり暮らしが
無理と分かっていても
なお父のため
懸命に寒さ対策を考える
もうこれが最後だなと
思いながら
実家の
障子を
貼り替える
老人の話に
何でも
「ソーカ、ソーカ」で応答する
ヘルパー達
老化しているのはどっちだ!
亡き母を
父と共に
始終見舞った病院へ
父を激励しに
訪れる
言葉にならない
父の
うわ言を
テレパシーで
解読する
「若い奴らが
俺を押さえつけて縛った」と
意識朦朧の中で訴える父
老人を恐怖で打ちのめす
拘束は暴力だ!
昏睡から
覚めるや否や
鎮静剤を打たれる父
見舞いで
鬱になる
拘束されて
虫の息でも
まだ
生きなくてはならないと
もがく父
どうしても救いたいと
医師に食らいついていた
母の時とは違い
どこか淡泊な自分を
父に詫びる
「生かそうとしているのか?
殺そうとしているのか?」
涙ながらに
父の紐を少し緩めるよう
看護士に求める
両手を縛っておきながら
「ボケが進んでいるから
長くは生きられない」と言う医師
呆けないで
いられるか!
「警察を呼べ!」
混濁した意識の中
拘束されて
うめく父
他に方法はないのか!
あたかも
神経がないかのごとく
無造作に
鼻へ管を差し込まれる
老人達
本人の意志など
はなから
無視されて
検査に回される
老人達
長期入院
介護者の
魂も
生体離脱
する
生き延びるのが
幸せなのか
分からないまま
衰弱した父の体を
懸命に刺激する
「親父生きよ!」と
足裏のツボから懸命に
気を注入する
ツルツルにしてくれた
訪問看護婦さんに感謝する
「超高齢ですから
全身麻酔だけで死ぬかも知れません」
本当に手術で助かるのか?
ベッドを空けたいだけなのか?
勘ぐりながら医師の説明を聞く
かつて
父が手入れをし
母を何度も助けてくれた
お地蔵様に
父もまた救われる
目も開けられないほど
衰弱した老人に
昼はリハビリ
夜は拘束
どちらへ行けば良いのか!
普段は昏睡なのに
リハビリだけは
しゃんとする父
ひとり暮らしの
恐るべき本能
ナースステーション内で
座わっている練習をしている父
手を振っても気付かない
代わりに手を振って応える
余所のお爺さん
「膝を揉んでくれ」
骨を揉むのか
皮を揉むのか
棒のような父の足を見て
一瞬考える
手を握り締め
「お前には本当に世話になった」と
散々泣かせておいて
翌日は
リハビリに励む父
ずっと
小さじ数杯の食事しか摂れないのに
突然歩行練習する父
家に帰りたい老人の
執念
見舞いで
お祖父ちゃんのジュースを飲んで
本気で怒られた娘
「ニューエスも怒ったね」
愛犬の想い出に花が咲く
正月さえも
老人病院に置き去りにされ
絶望で
静まりかえっている
老人達
うまく退院出来たとしても
また同じ苦しみを
味わうのが
見えてしまう
老いの厳しさ
「俺は本当は
早く死ねるよう
神様に祈っているんだ!」
思いがけない
父からの不意打ち
思い入れに
肩すかしを
食わせて
父
突然逝く
正直だけで
生きてきた
父の遺影の前で
一人
自問する
一人暮らしの父も逝き
茫然自失の中
高齢で母を看取った
父の悲しみを
知る
周りにも
世話を掛け
絆をつなぐ
最後の
親心
父の気配まで
消さぬよう
電気を
点けたまま
田舎を後にする
心配は
消えても
面影を追う
今年も
暑い夏
亡き父の
大好物だった
鰻重を
父に成り代わって
堪能する
雑草達よ
この家に
主が居なくなったのを
知っていて
攻め立てて来るのか
主(あるじ)を失った
実家のあばら屋に
凛として残る
明治生まれの老人が
健気に生きた証し
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