母の遠距離介護 五行歌
…高齢の父とした母への遠距離介護の様子の五行歌。
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「おばあさん入院したよ」
覚悟はしていても
突然の"母入院"の
父からの知らせに
只うろたえる
母の入院で
私が家を継がず
上京したとき以来の
老いた父の涙に
思わず貰い泣く
「迷惑を
掛けるで」と
頑として
外泊を拒む
意外な母を見る
自分だけでは
何もできなくなっている
現実に
怒りをぶつけてくる
九十歳の父
遠距離介護
通いでは
どうにもならない
無力さに
追いつめられる
たまにしか会えない
ヘルパーさん達に
「父母を頼む!」
との一心で
伝言を残す
ふすま一枚
隔てて寝る
父母の静けさに
飛び起きる
夜の田舎の静寂
発熱した母を
九十歳の父に託し
明日の会社のため
東京に戻る
親不孝を泣く
春の訪れで
見事に
元気になる母に
自然の偉大さを
実感する
貧しくても
心は繋がっていた世界と
豊かにはなっても
心はすれ違っている世界が
帰る向きで入れ替わる
転院しても
いつのまにか
人気者になる
高齢
おしどり夫婦
毎日の見舞いを
ほとんど
面会所で
居眠って過ごす
疲労困憊の父"
くたくたになりながらも
また
母と並んで
診察を待てる喜びを
噛みしめる
この前は戻って来れたが
今日は大丈夫かと
便所への通路を
何度も窺って待つ
大病院の待合室
突然繰り出す
「またどこかで浮気している!」
侮れない
過去の記憶への後退
女の執念
「ああ綺麗だねえ」
一瞬で
仕舞われてしまう
呆けた母への
絵手紙
ボケても上手な
母の"里の秋"で
よみがえる
裸電球の頃の
寒い夜
耳の遠い父が
読み
母と私が
競う
いろはカルタ
ボケていても
起きあがるのがやっとになっても
自力で便所に行かないと
共倒れになることを
最後まで承知していた母
老人は
周りの景色を取り込み
景色に同化して生きる
切り離すことは
できない
年寄りだけの田舎を窺う
台風の進路を
東京から
念力で
本気で邪魔する私
ボケは
別れの
悲しみを
小さくしてくれる
神の仕掛け
「この家で
死にたい!」
自宅は
老人の
命の一部だ
病院では平気だったのに
老人施設では
「わしは捨てられた!」と
空気の違いを感じ
さわぐ母
愛に飢え
全員が
無表情な目を向ける
老人病院の
老人たち
老人病院の
無機質な夜に
耐えられるよう
少し人格を切り替えて
蘇った母
老人の
命の一部の自宅から
また
施設へ連れ戻す
一時帰宅の残酷
実の子より
まめに見舞ってくれる従姉を
娘と間違える母
「正直なものだ」と感心しつつ
感謝する
「もう助からん、
いつ死んでもおかしくない!」
医師の宣告に
何度も何度も
泣きながら東名を走る
両手を縛られた母の姿に
涙しつつ
病院へ行くたび
気づかれぬよう
固く結ばれたその紐をゆるめる
「縛った手が抜けて
管を外した」と
余計きつく縛られて
いるのを見て
母にわびる
手を縛られたまま
衰弱していく母に
ついに
早くあの世に召して
母を楽にしてくれるよう神に祈る
夜、外出から帰ると
がやがやと親戚の気配
「おばあさんが死んだよ!」
何かほっとするのが
信じられない夜
ぬくもりの
象徴だった
母が
どんどん冷たくなっていく
恐ろしさ
もう母なのか
母でないのか
分からなくなった人の
傍らに
一人添い寝する
母の亡骸に向かって
「おばあさん
天国に行くんだよ」と
何度もつぶやく
高齢の父
人は
呆けて
子供に還り
親の待つ
天に行く
老親は
自らの
死をもって
最後の教えを
子に伝える
お袋!
頼りない息子の
準備が
出来るまで
良く頑張ったね
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